新潟県には、公立としては全国唯一の日本酒専門の試験場、「新潟県醸造試験場」があります。ここでは水や米などのさまざまな研究や技術開発、指導によって、県内の酒蔵と連携を取りながら新潟の酒造りを支えています。醸造試験場の先生から、新潟のお酒のおいしさを多角的に、わかりやすく紹介してもらいましょう。
新潟には約100の蔵があります。だから新潟の人たちは老いも若きも、男女とも、ふだんの会話に地元の酒蔵で造るお酒の名前が自然に出てきます。それほど地酒が暮らしに息づいている新潟で、ふだん呑むお酒の中心となっているのが「レギュラー」と呼ばれる普通酒。それに対して、「大吟醸」や「純米」、「本醸造」などの名前がついているものが「特定名称酒」。「新潟の地酒のおいしさを支えているのは、特定名称酒の比率の高さと、普通酒の質の高さという2つの柱です」と話すのは醸造試験場の渡邊健一場長。その言葉の意味することとは? 渡邊場長に伺いました。
お酒は酒税法で造り方が定められています。その中でも、吟醸酒、純米酒、本醸造酒などのいわゆる高級酒には、米の磨きやアルコール添加量、酒質などについて特に厳しい基準があり、これらは特定名称酒と呼ばれます。それ以外のお酒は普通酒ということになります。例えば、良質米(くず米は不可)の外側を50%以上削った白米を用いて特にていねいに造った酒で、特有の香りや味をもつもの以外は大吟醸と名乗ることは許されません。
はい。新潟の生産量の3分の2が特定名称酒です。日本全体では、特定名称酒の比率は約4分の1に過ぎませんから、新潟県では蔵の大小にかかわらず皆さん高級酒生産に力を入れており、蔵の顔となっているのがわかります。
新潟の普通酒は、醸造アルコールの添加量以外は、特定名称酒並みのていねいな造りをしています。大小どんな蔵でも、地元の人に昔から愛飲されている普通酒に手を抜くことは決してありません。酒米の磨き方や、原料に酒造好適米を多く使うことなども、ごく普通に行われています。新潟の普通酒には、他産地の特定名称酒より旨いものがたくさんあると思っています。地酒としての長い歴史に裏付けられた蔵人のプライドが、普通酒の質の高さにつながっているのでしょう。
秋の関信局の鑑評会は、冬に造られた清酒を秋まで熟成させ、『吟醸の部』と『燗酒の部』のそれぞれで審査します。吟醸の部は大吟醸を対象にした、いわゆるF1レース。燗酒の部は市販酒規格の純米酒が対象で、大きくくくれば特別でない、ふだん呑むお酒の審査と考えてもよいでしょう。その2部門とも、新潟県の入賞数が他県を圧倒しました。これは最高の酒造技術が日常呑まれるお酒に生かされている新潟酒の姿を写しています。大吟醸などの特定名称酒とふだん呑む市販酒。これからもこの2つの柱をともに大切にしていくことが、新潟清酒独自の道を切り開いていくのではないでしょうか。
渡邊健一さん
わたなべけんいち:1956年 新潟市生まれ。国税庁醸造試験所研究員、国税局鑑定官等を経て1991年新潟県醸造試験場にUターン。2003年場長就任現在に至る。
新潟県醸造試験場
新潟市中央区水道町2丁目5932-133
TEL.025-222-4568