所在地:村上市飯野1-4-31 TEL.0254-53-3145/アクセス:JR村上駅から徒歩10分
大洋酒造は県北の城下町村上市にある酒蔵です。初回は、原料となる酒米を蔵人自らが栽培する酒蔵の、稲刈りイベントの様子をお伝えします。
大洋酒造の杜氏田澤勝さんは原料となる酒米を自身で栽培しています。そして田植えや稲刈りは社員総出。今年は新たな試みとして、実際にお酒を扱っている新潟市内の飲食店の方たちも田植えと稲刈りに参加しました。平成21年10月4日、新潟県が開発した酒米「越淡麗」の刈り取りイベントが行なわれました。
この時期、村上では恒例の屏風まつりが行なわれます。大洋酒造ではかつて仕込み蔵だった「益藤蔵」に屏風や道具類を展示。14の酒蔵が昭和20年に合併し、その5年後に大洋酒造となった歴史から、合併前の各蔵に伝わる貴重な品が並びます。「末廣」、「都川」、「松の井」、「三輪滝」、「巌清水」、「鶴聲」、「益田鶴」……。説明文に記されたかつて醸していた酒の銘柄が、村上の地で酒造りが脈々と受け継がれてきていたことを物語っています。
春はお人形、秋は屏風などが展示される益藤蔵。2階から作業できるよう吹き抜けになっている
屏風を見学し、会社での発会式後、いよいよ田んぼへ。田澤杜氏の田んぼは車で10分ほどの大場沢坊山にあります。5月に植えた越淡麗が穂をたれ、刈り取りを待ちます。田澤杜氏から、カマを使った手刈りや、はさ掛けのために束ねる(「まるける」というそうです)方法が説明され、作業開始。この日は飲食店の方たちに混ざって益田茂彦社長の姿も。「うちの杜氏はとにかく一生懸命。醸造試験場での開発途中、『越淡麗』という名前もなかったときに酒造組合から試験栽培の声がかかると、この酒米の特性を確信し、いままで大吟醸などに使っていた『山田錦』をいっさいやめてしまったんです。その年『越淡麗』は30俵しかとれず、結局鑑評会の入賞も逃しました。でも、『他に先んじてやりましょうよ』という決断の早さ、熱意には脱帽しましたね」と益田社長は当時を振り返る。その後、蔵人栽培の「越淡麗」を使った大吟醸酒は全国新酒鑑評会金賞や、秋の関信局酒類鑑評会での県総代(県1位)など数々の賞を受賞しています。
稲刈りに参加した飲食店の方たちは目を輝かせて手刈りや稲をまるける作業に没頭。稲を束ねるはずが自分の手がからみあってしまうことも……。蔵と飲食店の間に入り、今回のイベントを企画した酒問屋小川の古山雄士さんは「日本酒をお客様に提供する側と、造り手が顔を合わせ、しかも原料となるお米に実際にかかわることで、そのお酒に対する思いも違ってきますね」と話してくれました。あっという間に刈り取りを終えて、次なる作業ははさ掛けです。社員と参加者有志が、下から次々と放られる稲束をキャッチし、掛けてゆきます。無事作業終了。このあとは懇親会です。
懇親会の会場は車で15分ほどの道の駅・朝日にある「またぎの家」。ダムで沈んだ奥三面の民家を移築した表情のある建物です。ここでも田澤杜氏が大活躍。自家製のもち米で「刈り上げ餅」をつき、これまた自家製の5種類の味噌を用意。味噌をつけてかぶりつくとれたてのきゅうりのおいしいこと! 料理担当は田澤杜氏はじめ社員の奥様たち。郷土料理「大海」や、代表的な鮭料理「鮭の酒びたし」、蔵元自家製の粕漬け、枝豆、そして雑煮。村上のおいしいものが大集結。地元の食材、料理とともに味わう大洋盛は、自然にのどを通り、食べ物のおいしさを倍増させてくれます。これぞ、地酒。さらに5月の田植えのときに持ち帰った苗を育て、その成長具合を競うコンテストも行なわれました。新潟市東堀通りの「霜鳥」オーナーが見事一等賞に輝き、商品の大吟醸をゲット。
今回のイベント運営の中心となったのは若手営業マンたち。「よい米だけでよい酒はつくれません。酒は人とのかかわりの中であるべきもの」という益田社長のことばを、杜氏をはじめ社員が体現している大洋酒造は、ぬくもりと元気に満ちた蔵でした。
今回刈り取った「越淡麗」を使った酒造りの様子は、また後日。しかとレポートしたいと思います。どんなお酒に醸されていくのか、お楽しみに。
奥三面から移築された古民家で懇親会。囲炉裏や縁側のある癒される空間で、あたたかい会が催された。
田澤勝杜氏は「越淡麗」のほか、「五百万石」、「たかね錦」などの酒米も栽培している
田茂彦社長は7代目。大洋酒造は昭和20年下越銘醸、酒名「越の魂(こしのたま)」からスタートし、5年後に大洋酒造、「大洋盛」に改名
刈り取った「越淡麗」は昔ながらの
はさ掛けで、天日乾燥。
益田社長(右)と、会の運営を担当したバイタリティあふれる若き営業マンたち。
洋酒造では10名から蔵見学を受け付けています。週末のみ要予約。無料。写真は蔵限定販売の「蔵出し原酒 大洋盛」。目の前で瓶詰めしてくれる。